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校長先生のお話

2009年11月09日のお知らせ

蟻の消防夫

 もう50年以上も前に亡くなられた神父さんで、カンドウ神父という方がおられます。私は直接お会いしたこともありませんが、フランスのバスク地方出身で(ベレー帽はバスク人のトレードマークとして有名ですね)、日本で活動して多くの人たちから慕われた神父さんです。著書を読むとカンドウ神父の暖かい人間性が随所から伝わってきます。今日は、そのカンドウ神父さんが本の中で触れていた面白い話を紹介します。

 フランスにマルグリット・コンブという博物学者がいて、彼女が学会で発表した報告の話です。ある時彼女は、火のついたままのタバコの吸いさしをふと庭に投げ捨てました。庭にタバコの吸いさしを投げること自体の是非は置いておきますが、この火のついた吸いさしがたちまち消えてしまったことに不審を抱いた彼女がかがんで調べてみると、そこには蟻の巣がありました。蟻の巣があることと火がすぐに消えてしまったことと何か関係がありそうです。そこでマルグリットはこの蟻に対して実験を繰り返してみたのです。その結果、つぎのような事実が確かめられました。火のついたタバコが落とされると、蟻はびっくりするが、すぐに集まってきて、燃えているタバコの方にお尻を向けてシュウと蟻酸を放射する。すると吸殻はジリジリと消えてしまったのです。つまり蟻は毒液である蟻酸という液体を放射すると火が消えることを知っていたのです。マルグリットはタバコの代わりに灯心に火をつけて落としてみるなど、色々方法を変えて実験を繰り返してみたのですが、結果は同じで、勇敢な消防夫はたちまち寄ってたかって消し止めてしまいました。あまり熱心に火の間際まで近づいて、焼け死んだ犠牲者も出たほどでした。

 蟻が火を液体で消すことを知っているのは不思議なことですが、しかしこれは実はただ一つの蟻の巣だけに見られる行動であったのです。マルグリットはあらゆる種類の蟻の家でこの実験をしてみたのですが、このような例は他ではみられませんでした。つまり博物学者の庭に巣を作った蟻の集団だけが火を消す技術を体得しており、その技術は他の蟻の集団には伝わらなかったということでした。

 今日の話はここまでです。私たちは博物学者の庭に巣を作った蟻のように、知恵を出し合って、より良い環境を作っていく共同体でありたいものです。そして同時に、私たちは蟻とは異なり、自分たちで作り上げたよいものやアイデアがあれば、それらを他の人たちも共有できるように伝えていきたいものです。