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校長先生のお話

2012年09月度のお話

2012年09月度のお話です。過去のものから新しいものへ順番に並んでいます。

2012年09月03日

文化祭に向けて

 今日から文化祭の準備期間に入ります。昨年の文化祭は内容の充実した良い文化祭だったし、今年の体育祭も大好評だったので、今回の文化祭についても気分よく張り切ってくれていることと思います。

 ところで、今年のロンドンオリンピックで日本人選手が活躍した競技の一つにバレーボールがありました。バレーボールというと、1964年、私が中学生だった時におこなわれた東京オリンピックでは日本女子は圧倒的な強さで金メダルを獲得し、その影響もあってか当時はバレーボール部の人気が高かったことを覚えています。今回のオリンピックで女子は見事に銅メダルを獲得しました。28年ぶりだそうですね。

 私もテレビで観戦したのですが、見ていると一人だけユニホームの色が違う選手がいるのに気がつきました。あれはリベロというレシーブなど守備専門のポジションの選手を他の選手と区別するための措置なのですね。14年ほど前から採用されていた制度なので、バレー部の部員をはじめ知っている生徒がほとんどかもしれませんが、昔はなかったポジションなので私は今まで知りませんでした。リベロは審判の許可なしに自由に交代できるのでそれとわかるようにユニホームを違えているのですが、サーブやスパイクなど攻撃的なプレーはできません。規則でキャプテンにもなれないのですね。バレーボールの選手は背の高い選手が多いですが、リベロは背が低くてもやれる、要するに地味なポジションです。

 今回先発メンバーのリベロは佐野優子という選手でした。佐野選手は身長が1メートル59センチと小柄な選手です。高校生の時はリベロの制度が導入されていなくて、出身校である京都府の北嵯峨高校の橋本監督の佐野選手に対する第一印象は、「とてもじゃないけど活躍するような子ではない」と思ったそうです。ところが、それは大きな間違いでした。故障した選手の代役で投入されると驚異的な動きを見せます。橋本監督の談によると、「落ちると思ったボールの下に必ずいる。『ここまでやるか』というぐらい、拾うわ拾うわ。」 どこにボールが落ちるのかを読む才能があったようです。チームに所属できない不遇な時期もありましたがめげずにがんばった結果、33歳でついに銅メダルを獲得しました。

 点を取らなければ勝てないので攻撃力のある花形選手は絶対に必要だし、トスをあげるセッターも必要です。ですが、攻撃に参加できずひたすら守備に徹する地味なポジションだが自分に与えられた役目をきっちりこなすリベロがいることで、チームはゲームを作ることができます。リベロ佐野選手は本当にいい働きをしたと思います。

 さて、文化祭の話に戻りますが、以前にも話したように、文化祭は体育祭とはずいぶんタイプの異なる行事です。研究発表あり、演奏や演技あり、制作発表あり、模擬店あり、様々な催しが何か所にも分かれて同時並行で進行します。質の高い研究発表になってほしいと思うし、舞台で素晴らしい演奏・演技を見たいとも思うし、おいしい食べ物を提供してほしいとも思っていますが、それがすべてできればそれで成功かといえばそうではありません。ごみが散乱していたら不潔な感じを与え、気分を害するでしょう。たくさんの人の前に立って目立つ役割を演じる生徒を横目に見ながら、目立たないけれども一日中一生懸命ごみ集めをする生徒がいてきれいな会場が維持されます。使われた食器を回収し洗って次のお客さんに使ってもらうために洗いものばかりして1日を終える生徒がいるかもしれませんが、そのような生徒がいなければおいしい食べ物を提供することができません。暑い中、案内役に徹する生徒がいることで間違えずに行きたい場所に行くことができるのです。

 今年のテーマは「英(はなぶさ)」です。英雄の「英」ですが、文字通りの「はな」の房という意味も一方ではあります。きれいな花も、部分々々を見ればそれほどきれいには見えませんし、豪華にも見えませんが、それらが調和がとれ統一的に合わさっていくと素晴らしいはなのふさになります。これと同じように、一人ひとりが自分に与えられた仕事をきっちりこなすことでさわやかで引き締まった文化祭が出来上がると思います。

 そのような意気込みを持って2週間準備をし、本番も頑張ってほしいと思います。

2012年09月24日

9.11アメリカ同時多発テロ事件

 今日の話は“9.11アメリカ同時多発テロ事件”についてです。2週間前に話す予定でしたが、雨で流れたので今日に持ち越しました。

 アメリカ同時多発テロ事件とは、11年前の9月11日、ウサマ・ビンラーディンをリーダーとするテロ組織アルカーイダのメンバーが4機の航空機をハイジャックして、ニューヨークのワールド・トレード・センターや国防総省(ペンタゴン)の建物などに突入して3000人近い人が犠牲になった事件のことです。

 特にワールド・トレード・センターはニューヨークのマンハッタンにあります。マンハッタンは見上げるような超高層ビルが林立する地区で、アメリカの富と力の象徴のような場所です。それら超高層ビルの中でもワールド・トレード・センターはひときわ高いツインタワーで、そこに航空機が突っ込んだわけです。

 ブッシュ大統領は小学校を視察中でフロリダにいましたが、事故のニュースを聞いたときは相当なショックを受けていました。また、アメリカ国民にとっても自分たちの繁栄と力の象徴のような場所が攻撃され破壊されたことは大きなショックで、国内ではテロの実行犯がアラブ系だということで、国内のアラブ系の人やイスラム教徒に対して敵対感情を持つ人々が出て、アラブ系の人びとは嫌がらせにあったり、職を失うこともあったり、また暴力をふるわれたりしました。

 国連は9月12日にテロ非難決議を採択します。このテロ行為に対してはアラブ諸国からも非難の声が上がっています。

 この後、アメリカは非常事態宣言を出し、アルカーイダのリーダー、ウサマ・ビンラーディンを首謀者と断定して、アフガニスタンのタリバーン政府に引き渡しを要求します。タリバーン政府は証拠がないとして引き渡しを拒否、これを受けてアメリカはアフガニスタンを攻撃し、この結果タリバーン政権は崩壊しましたが、ビンラーディンらを捕捉することはできませんでした。

 さらにアメリカはこの後、イラクに対し、大量破壊兵器を隠し持っているとして、テロを予防するためのイラク戦争を開始し、サダム・フセイン独裁政権を倒します。しかし、肝心の大量破壊兵器は見つかりませんでした。実は開戦前から大量破壊兵器は出てこないのではないかと言われていて、つまり確たる理由はなく戦争を起こしていったのがイラク戦争だったということです。

 イラク戦争からその後のアメリカ軍のイラク駐留の期間に実に多くの無辜の市民の血が流れ、イラクの人だけでなくアラブ諸国の人びとのアメリカに対する怒り・憎悪は増幅されました。

 テロは許すことはできないし、アメリカの人の怒りも分かりますが、だからといってテロリストがアラブ系だったから、イスラム教徒だったからと言って短絡的にアラブ系の人やイスラム教徒をテロリストと同一視して排撃するのは明らかに行き過ぎた行為で間違っています。また国家による予防のための戦争は互いに憎悪を増幅させ、報復の連鎖を生み出すだけに終わります。

 このような一連の経緯を見ると、人間は憎みあうことしかできないのだろうかという暗澹たる気持ちになりますが、本当に報復の連鎖は止めることはできないのでしょうか?

 私はそのようなことはないと信じたいと思います。

 同時多発テロ事件の直後、ワールド・トレード・センターの最上階のレストランでソムリエとして働いていた人の妻がテレビの取材に対して、次のように答えたという話を紹介しましょう。彼女は、死んだ夫がアメリカ国民に伝えたかったことがある、というような表現で、夫は復讐とか報復を必ず拒否するだろう、夫は暴力よりも話し合いが実り多いものだと信じていた、私たちはこのような犯罪が繰り返されるのを防ぐために、私たちを憎む人々と共通の理解に達しなければなりません、と語っているのです。夫をテロによって無残に殺された人なのに、報復ではなく話し合いによって和解すべきだと主張しているのです。

 昨年ノルウェーのウトヤ島で銃の乱射によって69人が殺された痛ましい事件が起こりました。犯人のブレイビクは禁錮21年の刑となりましたが、事件の現場にいながら殺戮を免れた10代の少女がこんなことを言っているのです。「一人の男がこれほどまでの憎しみを見せたのなら、私たちはどれほど人を愛せるかを示しましょう。」殺戮の現場にいて自分が殺される恐怖を味わった少女が、憎しみに対して憎しみではなく愛によって相手の心を変えよう、と言っているのです。

 人間は崇高な精神を持つことができる存在です。世の中にはそのような精神を持った人がたくさんいることを信じたいと思います。六甲の生徒もそのような精神を持ってくれるようになれば本当にうれしいことです。