在校生・保護者の方へ

HOME › 在校生・保護者の方へ > 校長先生のお話

校長先生のお話

2011年02月度のお話

2011年02月度のお話です。過去のものから新しいものへ順番に並んでいます。

2011年02月05日

68期卒業式式辞

 厳しい寒さが多少とも緩み、爽やかな冬空が広がるなか、68期生の卒業式を迎えることとなりました。

 毎年、卒業式が近づくころ、私は卒業していく学年がどのような学年であったかを振り返るのですが、68期生の六甲での6年間を振り返った時、そこにこれまでの学年とは異なる思いや感慨があることに気がつきました。その思い・感慨とはどのようなものなのでしょうか。

 6年前、68期生が入学した2005年から六甲は5日制に移行し、6年を経て君たちが卒業する後、再び六甲は6日制に移行することになりました。68期は5日制体制下で6年間を過ごした唯一の学年です。この5日制の下での6年間、中学時代には、ドイツから日本に来られ六甲創立以来六甲学院とともに生きてこられたブラザー・メルシュの最後のお話を聞くことができましたが、その後メルシュさんを見送らねばならないことにもなりました。昨年、創立間もないころに建てられた旧校舎が解体されましたが、68期は伝統ある旧校舎を最高学年として見送ることになりました。この間、旧校舎での最後の文化祭を開催し、体育祭は、新型インフルエンザ禍のため前年度の体育祭が中止となり前年度からの引き継ぎのない中で準備しなければならなくなるハンディを乗り越えて立派に実行できたことは記憶に新しいところです。

 このように振り返ってみると、私が一種の感慨をもって68期生を送り出そうとしていることの意味が理解してもらえるのではないでしょうか。

 形あるもの、目に見えるものとして創立以来六甲の伝統を象徴してきた存在が退場していくなかで、時代の要求に応じながら「永遠なるもの」の存在を信じて六甲の目指す教育を貫いていく、その大きな動きの真只中にいた学年が68期だったのです。

 68期生の卒業式にあたって、今日、六甲が創立以来伝えてきたものについて改めて考えてみることは大いに意味のあることだと思います。

 聖書の中のイエスの言葉に、「狭き門から入りなさい」という有名な言葉があります。「狭き門」という表現は、現在では競争の厳しい状態、「狭き門から入る」とは競争相手が多い中で競争に勝って栄冠を勝ち取るような意味に使われていますが、当時の社会状況の中でイエスが語られた意図はまったく異なったものでした。イエスの時代、城壁で囲まれた都市に入るためには広い門があり、多くの人びとがこの門を出入りして生活していましたが、この広い門とは別に人目に触れにくいところにひっそりと小さく狭い門があり、こちらは貧しい人々や身体的に不自由な人びとが利用していました。イエスが「狭き門」といったとき、それはこのような門のことをいったのです。“狭き門から入る”、これは「社会的弱者の存在に目を向け、そのような人びとのために、そのような人びととともに生きなさい。」というイエスのメッセージなのです。

 “Man for Others”という言葉で六甲が君たちに繰り返し教えたのはこのことです。

 君たちは6年間を通じて学生の本分である勉強にしっかり取り組み、真理探究の精神を磨くとともに、社会奉仕活動などの心の教育を通して社会的弱者の存在を知り、行事や委員会活動・クラブ活動を通して実行力・指導力をつけていってくれました。創立以来六甲の伝統を象徴してきた形あるものが退場していくなかで、時代の要求に応じながら「永遠なるもの」の存在を信じて受け継いできた六甲の教育に正面から応えてくれました。

 現在の日本は「縮み志向」とよく言われます。海外留学を希望する若者が減っていることはその典型例として紹介されています。これは一面の真実でしょうが、一方では国境の壁をものともせず、海外に出て現地の人たちに利益を還元しながら起業したり、あるいは自らNPO法人を立ち上げてボランティア活動に従事する若い人たちの活発な動きも報告されています。アジアやアフリカで国際協力活動をしている日本人が多いのも現状です。かの地での日本人の活動は欧米の援助機関とは異なり、現地の人々に寄り添って働く現地主義が多いそうで、日本の高度で信頼のおける技術・製品とともに高く評価されています。「縮み志向」という言葉でひと括りにしてしまうことのできない側面も私たちの社会は持っているのではないでしょうか。

 日本の国際的地位の低下が指摘され、国内では厳しい雇用情勢が続き、孤族と呼ばれる孤独な人びとも増えている現在、根拠のない楽観主義は厳に慎むべきですが、それでも、必ず世の中は変えられるという進歩への信頼・確信を君たちは持ってほしいと思います。これこそが若者の持っている特権です。控えめな進歩主義、これは六甲が常々説いている“MAGIS”に通じる精神でもあります。

 六甲で培った“Man for Others”の精神、仲間とともに身に付けた実行力・指導力を武器として、自信を持って新しい世界への一歩を踏み出してください。

 旧約聖書の創世記にこのような言葉があります。“時に主はアブラムに言われた。「出でよ、お前の国から、お前の親族から、お前の父の家から、わたしの示す方へ。」(創世記12章1)”

 68期生諸君が六甲を卒業した後、主の示す道を力強く進んでいってくれることを心から祈っています。

 最後になりましたが、68期の保護者の皆さま、本日はご子息のご卒業おめでとうございます。六甲での6年間を通じてご子息は立派な若者に成長しました。特に卒業が近くなったころに見せてくれたご子息の笑顔は、一つのことをやり遂げた達成感の感じられる爽やかなものでした。六甲を卒業した後も、六甲での経験を生かし、大学で、あるいは社会で存分に活躍してくれることを念じております。ご子息の今後の活躍を期待し、またご家族の皆様の上に神様の豊かな祝福がありますことを祈念しながら卒業式の式辞とさせていただきます。