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校長先生のお話

2010年04月度のお話

2010年04月度のお話です。過去のものから新しいものへ順番に並んでいます。

2010年04月07日

2010年度入学式式辞

 六甲学院の周辺ではすでに数日前から桜の花が満開となり、入学式までに雨や風で花が散ってしまうことを心配していましたが、幸い満開状態のまま本日の入学式を迎えることができました。

 73期新入生の皆さん、六甲中学校入学、おめでとう。先週の4月1日と2日にオリエンテーションが行われましたが、そのとき君たちはかなり大き目の制服を着て登校して来ましたね。でも、とてもうれしそうな表情を浮かべていて、着ていた制服が皆よく似合っていました。今日、君たちはその制服を着て入学式を迎えることができた喜びを今かみしめていることと思います。そして、これから始まる六甲での生活に大きな期待と希望を持って席に座っていることと思います。

 さて、君たち新入生は六甲とはどのような学校だと思って入学しましたか。
便所掃除のある学校、中間体操のある学校、勉強の厳しい学校、クラブ活動がさかんな学校、体育祭や文化祭など大きな行事を生徒が主体となっておこなっている学校、などでしょうか。確かにそのとおりです。六甲はそのような他校と異なる特色をたくさんもった伝統ある学校です。でも、そのような数ある特色の中で、六甲が大事にしているもっとも大きな特色は何でしょうか。

 それは、六甲がミッションを持った学校、ミッション・スクールであるということです。ミッションとは「使命」という意味をもった言葉です。六甲は君たちにこんな人間になってほしいという願い、「使命」を持った学校であって、六甲はそのミッションを君たちに伝え、君たちがそのミッションに応えてくれることを願っている学校なのです。では、その「使命」とはどのようなものでしょうか。

 昨年の夏、六甲は3年に一度行われるインド訪問を実施しました。インド訪問というのは、六甲の生徒が毎月行っている募金を送金しているインドの施設を訪問して施設の子どもたちと交流を深めたり、マザーテレサの施設を訪問したり、またインド観光もしたりする行事です。訪問先の現地から私のもとには毎日報告が入りますが、その中でとても印象に残ったことがありました。それはインドの子どもたちと六甲の生徒がグランドで仲良く遊んでいるときにかけられてきたときの電話で、「元気でやっています」という教員の声の背後からインドの子どもたちの楽しそうな歓声や大きな笑い声が携帯電話を通しても聞こえてきました。無邪気で心の底からゲームを楽しんでいる様子が日本にいる私のところまで伝わってきて、こちらまで楽しくなりました。この施設で生活している子どもたちは当然貧しいのですが、彼らに将来の希望を尋ねると、将来は手に職を得て家計を助けたいとか、人を助ける仕事に就きたいという望みを持っている子どもが多く、将来に希望を持って、とても明るく毎日を過ごしているのです。

 ここで気が付いてほしいのですが、この施設の子どもたちの希望は、「家族を助ける」とか、「人を助ける」とか、自分ではない他の人たちを助けることなのです。恩返しの意味もあるのでしょうが、自分も他の人たちの役に立ちたいという望みを持っており、そのことがこれだけの明るさを子どもたちに与えたことに私は感激しました。

 六甲の生徒もそのような人間になってほしいと願っています。君たちは豊かな才能に恵まれ、不自由のない恵まれた環境に育ちました。それは大変幸せなことです。君たちはその恵まれた環境に感謝し、六甲の先生方や先輩を信頼し、良い友達をたくさん作って様々な行事を経験して楽しい学校生活を送ってください。そしてその中で楽しいことも嫌なこともあるでしょうが、自分に与えられた仕事に積極的に取り組むことで、自分の将来に希望を持って、社会のために、他の人々のために働く人間に成長していってくれることを私は願っています。73期生が他の人々のために働く人間に成長するために君たちと向き合うことが六甲の持っているミッション、「使命」です。

 そして、もう一つ話しておきたいことがあります。知っての通り、今ある校舎はまもなく取り壊されます。そして2年間の仮設校舎生活を経て新校舎での生活が始まります。君たちは現校舎で授業を受ける最後の学年です。そのような学年として、今、初代校長の武宮隼人先生が遺してくださった碑文の内容をじっくり考えてみるのは意味のあることです。武宮先生が遺してくださった碑文は校庭の石に刻まれています。指導員の先輩に連れて行ってもらったクラスがあるかもしれません。このようなことが書かれています。

“すべてのものは過ぎ去り、そして消えて行く。その過ぎ去り消えさって行くものの奥にある永遠なるもののことを静かに考えよう”

 現校舎をはじめとして、私たちが見たもの、関わったものはやがて消えていきますが、その経験したものの奥には消えない本当のものが残ります。武宮先生はそれを「永遠なるもの」と言われました。六甲は、創立以来君たち73期生を迎える今日に至るまで、常に変わらず、永遠なるものを追い求める人間を育ててきました。「永遠なるもの」が存在するからこそ、私たちは希望を持つことができ、自分ではない他の人々のために働くことができるのだと私は思っています。君たちは、本当のもの、永遠なるものを追い求める人間になってほしいと思います。六甲にはそれを探す場があります。永遠なるものを追い求めるならば、六甲での6年間は、君たちにとってきっと素晴らしい充実した6年間になります。73期生の諸君はぜひ充実した6年間を過ごしてください。

 最後になりましたが、新入生の保護者の皆様、本日はご子息のご入学、おめでとうございます。

 皆様は、六甲学院の学校案内やホームページに紹介されてもいます「六甲生のプロファイル」をご覧になったことがおありかと思います。プロファイルに書かれている若者像をかいつまんでご説明すれば、ありのままの自分を素直に受け入れ、他の人々の存在を肯定的に受け入れ、強い意志力をもって真理を探し求める姿勢を持つことで、よりよい社会を作り上げようとする人間ということになります。

 私たち六甲学院の教職員はご子息を大切にお預かりし、6年後には「プロファイル」に書かれているような志向性をもった若者に成長してくれるよう全力をあげて取り組む所存でございます。保護者の皆様方におかれましては、どうぞ六甲学院の教育にご理解賜り、ご協力をお願いいたしたいと存じます。

 ご子息と保護者の皆様の上に神様の豊かな祝福がありますことを祈っております。

2010年04月08日

失敗をおそれず、チャレンジを

 昨日の始業式・入学式に続いて今日から授業が始まります。6学年がそろって朝礼を行うのも久しぶりのことですね。

 昨日の始業式の話は、年度の初めにあたってそれぞれ決意を新たにして、目標を作り新しいことにチャレンジしていってほしい、そしてそれには主体的に行動することが大事である、というような内容の話をしました。

 今日はその話の続きにあたる話です。昨日の話では一大決意をして新しいことに踏み込んでみて成功した例を紹介したわけですね。確かに決心をしたらやり遂げてほしい目標はあります。たとえば、今年は遅刻をしない、そのために7時に起きていたのを6時半に起きるようにする、といったような目標はがんばれば達成できる目標です。ところが、たとえば、勉強をがんばって成績を5点上げるとか、試合に勝って予選を突破するといった目標はどんなにがんばっても達成できないことがあります。能力の限界もあるだろうし、相手もあることですから当然でしょう。むしろがんばったけれど達成できなかったというケースの方が現実には多いと思います。

 今日はそのような例を紹介します。昨年の7月に朝日新聞に載っていた記事の紹介です。

 春の選抜高校野球は沖縄の興南高校が優勝しましたね。ところで、2007年に夏の大会に大分県代表となった学校は楊志館高校という高校でした。このとき、高2でレギュラーとして甲子園に行った選手の一人に佐藤翔司君という生徒がいました。彼は翌年、チームの主将になるのですが、この年、同級生でただ一人甲子園に行けなかった生徒がいました。マネージャーだった大崎耀子(あきこ)という女生徒です。彼女は明るい性格の生徒で、打撃が得意でなかった佐藤君に付き合って遅くまでティー打撃のためにトスを出してくれ、的確なアドバイスもくれたりしたのですが、地方大会が始まる前ごろから欠席がちになります。実は彼女はがんに冒されており、治療に専念しなければならなくなり、そのため甲子園には行けなかったのです。

 翌08年、佐藤君は主将となりました。しかし、あっこのがんは末期で、やがて腰に転移します。彼は絶対にあっこを甲子園に連れて行くと誓って猛練習をします。あっこは野球部を応援するために治療をやめ、地方大会が始まるとベンチに入りました。
しかし、地方大会の初戦で楊志館高校はコールド負けを喫します。佐藤君はチャンスに凡打してしまったのです。負けた直後にベンチの前で撮った写真があります。感染予防のため大きなマスクを着けて痩せたあっこが顔をくしゃくしゃにして泣いている。その横で佐藤君があっこの肩に手を置いて、こちらも顔がゆがんでいる。佐藤君は悔しかったと思います。さぞかし無念だったことと思います。その3ヵ月後にあっこは容体が急変し亡くなりました。

 このように、努力しても報われないこともあります。でも、佐藤君の努力は無意味であったのでしょうか。私はそうではないと思います。佐藤君は高校卒業後、地元の機械製造会社に就職して、軟式野球部に所属して野球を続けています。相変わらずチャンスに凡打することもありますが、その時は笑顔を絶やさず「明日は打てるよ」と言ってくれたあっこのことを思い出して、明日を信じて前向きに生きるようにしている。悔しい経験をバネにして、明るく前向きに生きる生き方を学んだわけです。あっこのために全力でがんばったことで人間として大きく成長したわけです。

 君たちには、がんばっても成功しないことも多々ありますが、失敗を恐れず、むしろ失敗したことで得るものも大きいということを信じて、何事にも果敢に挑戦していく人間になってほしいと思います。今年度君たちが立てた目標に向かって努力するとき、失敗を恐れないという強い気持ちを持ちながらがんばってください。